安売りしない女
なにしろお客は、莫大なお金をかけても廓に通おうという粋人(おいらんを買うには年に三千万円くらいは必要)、ほくろ 除去して身に付けるハンパな「お嬢さん芸」なんか、とてもじゃないが恥ずかしくって見せられない。
だからおいらんは、和歌でも書道でも踊りでも、すべて家元級にこなせたんです。
だって、どんな趣味を持つお客がつくかわからないんだもの、「碁でもうとうか」と言われるかもしれないし、「近ごろの能狂言は」という話になるかもしれない。
それをすべて心得てたんですよ、おいらんは。
だけど、そんじょそこらの客には体どころか芸も見せなかったし、たとえ大金持ちの旦那でも、ヤボなヤツは相手にしなかった。
よほどのことがないかぎり、どんなに名手でも踊ったり唄ったりもしない。
お座敷芸が目あての客は、芸者かたいこ持ちを買えばいいのだから。
お客のほうも、おいらんをくどくために芸事に励んだ。
高いお金をかけて、むしろお客がおいらんのゴキゲンをとってたんです。